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右へ曲がる


二つ目の交差点を、右へ歩いた。珍しく仕事が早く終わったから、久しぶりに近所でも散歩して帰ることにしよう。大人になってから、近所の景色を眺めることも殆ど無くなってしまったし、良い機会だと思った。慣れない足取りで、路地を歩く。公園で力強く香る大木や、家庭菜園の土の匂いは安心感そのものだった。ふと気が付くと、雨が降り出していた。

そろそろかな。

そう思っていると、私はカサカサという音と共に、妙な匂いを感じた。





不思議な匂い。


生ゴミが腐ったものとは少し違う、変な匂いをほんのりと感じる。前方から吹く風に乗って、やって来ているのだろうか。更に驚いたことに、私はこの匂いを嗅いだことがある様な気がしたが、何の匂いであるかはとうとうわからなかった。まるで、脳が思い出すなとでも言っている様だ。自宅はこの路地の先にあるので、匂いのする方向へと進まなくてはならない。しかし、歩みを進める程に、匂いは段々と刺激を増してゆき、それと同時に恐怖心が警鐘を鳴らす。気を紛らわせようと、夕飯時に家々から漏れ出る料理の香りを思い出しながら、ゆっくり歩みを進めると、ようやく明るい交差点が見えた。鼻の奥こびりついた匂いを消す様に

「ふうっ」

と口から息を吐く。

ここを曲がれば、もう家はすぐそこだ。






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