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右へ曲がる


二つ目の交差点を相棒と右へ進んだ。分厚い雲が広がり、空は赤黒い。今日は早く帰ることが出来たから、久しぶりに近所でも周って、残りの仕事をすることにしよう。こちらに曲がると遠回りすることになってしまうが、自分の帰路と逆方向に向かう人達の人生が気になってしまうのも事実だった。


たまには夜のサイクリングも悪くないしな。

さあ、どちらへ行こうか。


ペダルに掛けた足に力を込め、昔に忘れてきた探検心も一緒に乗せて夜の路地裏を巡った。友達と自転車で色々な所へ遊びに行ったことも思い出し、何だか子供の時の様に体が軽い気がした。明日は筋肉痛になりそうだなと考えていると、肌に雫が当たる。


雨も降ってきたし、そろそろか。


そう思った時、肩をトントンと叩かれた様な感触がして私は我に返った。





一旦足を地面へと降ろしてゆっくり振り返るが、何もない。ふと上を見上げると、カーブミラーにとぼけ顔の自分だけが映っていた。虫が肩をかすめただけかと思って、再び自転車を走らせながら、周囲へと神経を集中させる。


……すると、先程までは感じ得なかった何かの気配を背後に感じる。まるで向こう側が気付いて欲しいかの様に、はっきりとした気配だ。

予期せぬものへの恐怖がこみ上げる。


だめだ。もう、逃げるしか無い。

「もう、逃がさないよ」

本能がそう叫んでいた。こんなにも思考と行動がぴたりと当てはまったことは今迄あっただろうか。生暖かい空気を切り裂く様に自宅を目指す。目前に明るい交差点が見えると、息が切れるのにも気づかない内に、この道を曲がった。






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