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左へ曲がる


一つ目の交差点を、左へ進んだ。駅前の大通りへ出て、見慣れた道を進んでゆく。自宅から最寄り駅迄は少々距離があるのだが、健康の為に毎日徒歩で往復しているのだ。黙々と道を歩き、通行人を追い越していると、路地の入口が見えてきた。すっと身を滑り込ませると、

「ふうっ」

と溜め息が零れる。

自宅は、幼少期から過ごしてきた路地の奥にあり、その路地には車一台がやっと曲がれる様な小さな交差点が多くある。その殆どにはカーブミラーが連なっており、ぐにゃりと曲がった世界を映し出していた。


歪んだ自分を見上げる、不思議な感覚。


毎日そこを歩いていると、角を曲がるということに対して私は特別な意味を感じる様になった。そんなことを考えるなんて、老けたものだと感じつつ、いつもの道を進む。


そうこうしていると、交差点が見えてきた。私はここで曲がった。






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